コラム
Column

第2回

「運動器分野は今、なぜ超音波なのか?」
-超音波画像診断装置の有用性について動態解剖学のススメ-

株式会社エス・エス・ビー超音波営業部
柳澤 昭一

超音波画像診断

前回は、超音波画像診断装置が安全な観察法であることを書きましたが、今回は、運動器分野で今、なぜここまで超音波画像診断装置が着目されているのか、その有用性について考えてみます。

運動器の画像診断と言えば、単純X線に始まり、CT、MRIへと進化を遂げてきました。これらの画像診断装置があれば、すべての運動器疾患が理解できると想われたのですが、実際はそう上手くいきませんでした。

この3つの画像診断装置には、運動器分野においてはある意味決定的ともいえる共通した弱点があります。それは、いずれも「静止画で視る」ということです。運動器とは、まさに身体を動かすための器官で、その病態も、曲げると痛い、伸ばすと痛い、或いは曲げられない、伸ばせないと言った、動作に伴う痛みや機能障害が主であるからです。

では静止画で視る画像診断装置の場合どのようにしたかというとは、静止画で得られた情報をもとに頭の中で解剖学的な動態を予測して病態を考えるという、正しい疾患の把握のために乗り越えなければならない「予測の壁」があった、ということなのです。

つまり、運動器の画像診断装置にもとめられるものとは、「動態を解剖学的に観察できる装置」ということになるわけです。現在、この条件を満たすのは、超音波画像診断装置だけです。*1

ストレス検査を併用した超音波観察法
ストレス検査を併用した超音波観察法(AOLに外反ストレスを併用しながらの観察)

我々が当初、運動器分野への応用を研究開発しはじめた頃には、超音波画像診断装置はまだ画像が粗く、整形外科学分野でも乳幼児の先天性股関節脱臼の診断に使うぐらいしか行われていませんでした。

大学の整形外科学教室に委託研究をお願いして技術協力として伴に臨床データの収集を行ったのも、最初は大学病院での先天性股関節脱臼で、併せて構内のスポーツクリニックで学生の怪我をすこしずつ観察していきました。

当初は、微細な骨折や発育不全、骨癒合等の修復過程が判断できるかという目的で観察していたので、それでも十分な画像でした。単純X線で捉えづらい肋骨の不全骨折や、足関節捻挫に伴う裂離骨折を観察できたのもこの頃です。骨折の整復で軸を合わせていくのを動態観察するなどはしたものの、それでもまだ、単純X線やX線透視検査の代わりとして観察していたに過ぎませんでした。

やがてパソコンの普及とともにアナログから本格的にデジタル回路の時代に移り、超音波の画質もあっという間に格段の進歩を遂げることになります。その進歩とともに、観察対象が骨から軟部組織全般へと拡大していきました。指の弾発現象や、屈伸に伴う関節周囲の脂肪の流動、Achilles腱断裂の保存療法で足関節を底屈していくと断端がパラテノンのトンネルの中を寄っていく様などをはじめて動態観察した時の感動は、今でも忘れることができません。
荷重をかけていくと徐々に脱臼してはみ出してくる膝半月板なんて、誰が予測できたでしょうか。動態観察の重要性を、確信した瞬間でもあります。

変形性膝関節症では、単純X線で骨棘が著しく成長し関節軟骨が消失して変形が相当進んでいると想われる患者さんでも痛みや機能障害が全く見られないケースや、逆に変形があまり観察されないのにひどく痛みや機能障害があるケースなどが存在します。そこで超音波でこれらの伸展機能不全を観察してみると、膝蓋腱と膝蓋下脂肪体の滑走が癒着で制動されており、どうやらこのような癒着がキーワードのひとつになることが観察されました。

つまり、関節周囲にある脂肪体は運動器の構成体としての潤滑や圧力の分散などの役割を持っており、逆に炎症を起こし線維化して内圧を上げ滑走を妨げる場合もあることが示唆されたわけです。何とも人間の身体というものは、すごい。そもそも運動器を安静状態で画像診断しても、「解る範囲なんて限られていたのだ」というのが、率直な感想でした。

超音波の場合、この炎症の観察に有用であることも重要な長所となります。なぜなら炎症の初期は毛細血管の拡張であり、必要に応じて血管新生へと繋がっていくからです。超音波はこれらの微細な血管反応もドプラ機能でカラー化して観察することができます。正常部位と2画面表示で比較すると、炎症の程度を画像として把握することができるわけです。

また、血管と血流の様子が観察できるということは、修復過程を観察しているということにもなります。炎症が消失していくと共に、ドプラ機能で観られる血流の反応が徐々に消失していくのが解るのです。

Shin splints
Shin splints
脛骨の骨膜上に浮腫の存在が認められ、ドプラ機能で観ると毛細血管が拡張し血流が旺盛である事が解ります。

超音波は運動器分野で大切な動態を解剖学の視点で観察することができ、今まで解らなかった運動器疾患の「なぜ」を解き明かそうとしています。

この超音波による動態解剖学*2 とでも呼ぶべき考察を基礎として、筋膜リリース*3 などの新たな治療法の模索もはじまっています。運動器分野の超音波画像診断は、診断学のパラダイム・シフト(大転換)をおこし、新しい観点からの治療法の模索へと移行しつつあるわけです。

最新の拘縮治療のメカニズムを考えてみると、実は昔、柔道整復術のゴッドハンドと呼ばれる師匠にお話を伺った拘縮治療の手技が理にかなっている証明でもありました。その、ほんのわずかなアプローチの違いや発想を転換した工夫で過去の達人たちは治療家として結果を出してきました。

超音波で観察してみるとそれらの解剖学的な理由が解って、鳥肌が立ちました。柔道整復分野で先人から受け継がれてきた様々な名人技としての手技も、その意味や効果が超音波画像で検証される時代となってきたと思います。

*1
皆川 洋至:運動器(整形外科)超音波 現状とこれからの展望,Jpn J Med Ultrasonic 2008,35,631-40,(2008)
*2
動態解剖学という学問分類が正式にあるわけではありませんが、運動器分野ではどうしても必要な学問であるとの想いから、これらの研究をそう呼ばせて頂きます。バイオメカニズムのような力学を主とするのではなく、あくまで解剖学的視点で動態を考えるという意味です。「生体の運動をそのまま解剖学的に覗いて観られる」超音波だからこそできる、運動器分野に於ける人体構造とその疾患の、新しい研究分野であると考えています。
*3
整形外科分野では、超音波ガイド下筋膜リリースとして生理食塩水の注射で筋膜の癒着を剥がす処置が始められています。筋膜リリースという表現は解剖学的にはやや違和感がありますが、皮下組織など周囲組織と脂肪組織、或いは滑液包と脂肪組織の癒着の改善ということであると、解釈しています。

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