第1回
「事の始まりは、骨折を安全に観る」
-超音波画像診断装置の安全性について-
株式会社エス・エス・ビー超音波営業部
柳澤 昭一
事の始まりは、「なんとかX線に替わる方法で、骨折を観る事ができないか」とのご要望を、多数の柔道整復師の先生方、当時の日整の会長から頂いたことからはじまります。
パソコンがまだ一般的に普及していない時代に施術録管理から申請書発行等のレセプト・ソフトを開発、販売していたことで、システム開発会社としての弊社に白羽の矢が立ったわけです。
地元、筑波大学の故藤田教授と「骨折を被爆せずに安全に観る方法はないか?」をテーマとして共同研究開発がスタートしました。
そうなのです。そもそも「骨折を安全に観る」からすべてが始まったわけです。
そんなわけで第1回は、超音波画像診断装置(エコー)の安全性について考えてみます。
超音波画像診断装置(エコー)は、身体の内部を安全に覗ける機械です。X線検査と違い放射線を使わないため、被爆の危険性がありません。人間の耳には聞こえない高い音の振動を患者さんに当てているだけなので、観察による身体的な負担や危険性が及ぶことはほとんどありません。その為、放射線の影響を受けやすい胎児の観察などには、超音波画像診断装置(エコー)が第一選択枝として産婦人科領域で使われています。*1
これらの安全性の理由によってX線検査に替わる運動器の画像診断技術としても、超音波画像診断装置(エコー)を選択したわけです。
そもそも超音波ありきではなく、遠赤外線などの様々な可視技術の中から検討を重ねた結果、というわけなのです。
そんな安全性で選択された超音波画像診断装置(エコー)ですが、禁忌事項がたった1つあります。
運動器で通常使われるリニアプローブの場合、眼球への使用は禁忌となっています。眼球には眼球専用の超音波画像診断装置(エコー)があり、安全性が保たれるように調整されています。
もちろん、柔道整復師はその業務の範囲内での超音波の使用が認められているわけですし、そもそも眼球の解剖学的評価をすることはないと思いますが。
これに対して超音波治療器は、元来、治療を目的に生体に作用させるための機器であることから、禁忌事項も格段に多くなります。
急性傷害(連続波形を使う場合)、虚血性や出血しやすい部位、深部静脈血栓などの血栓症、アテローム性動脈硬化症などの動脈硬化、浮腫などの循環不全の部位、目の周辺、心臓、ペースメーカーの入っている部位、頭蓋骨、生殖器官、悪性腫瘍の部位上、脊髄や神経叢上、感覚麻疸した部位、修復前の骨折部位上、疲労骨折部位、血友病・結核・感染症などの疾病と感染部位上、妊娠中あるいは生理中の女性患者の骨盤・腰椎の部位上と、成長過程の骨端なども禁忌です。*2
またその逆に、骨癒合の促進を目的とした超音波骨折治療器や、体外から衝撃波を当てることで結石を小さく破砕し尿管から膀胱に排泄させて除去する体外衝撃波結石破砕(ESWL = Extracorporeal Shock Wave Lithotripsy)、がん細胞を温熱攻撃するハイパーサーミアなども有り、それぞれの目的にあわせて超音波が調整されています。
「超音波」というくくりで誤解される方が多いようですが、超音波画像診断装置(エコー)と超音波治療器では、そもそも目的とするところが違い、しっかりと区別して捉える必要があるわけです。
このように超音波画像診断装置(エコー)は、安全性に優れ、いつでもどこでもすぐに観察が可能で、柔道整復師にとっては、「傷病と戦うための強力な武器」と言えるわけです。
- *1
- 胎児や小児は臓器の放射線感受性が高く、余命が長いために放射線の影響が将来出現する確率が高いなどの理由によって、X 線などの検査は必要最小限とされています。また、超音波画像診断装置(エコー)の超音波をマウス胎仔に長時間照射すると脳神経細胞の発達に影響があるとする論文が米国科学アカデミー紀要の電子ジャーナル版に掲載されたことが報じられましたが、「今回の実験条件では超音波照射部位を固定し、かつ長時間照射し続けており、通常の超音波検査を大きく超える照射条件であること、また、人とマウスでは脳の大きさや発達速度が著しく異なることから、本論文でも述べられているように、今回の報告は人胎児診断の安全性について直接言及、評価しているものではない」として、日本超音波医学、日本産科婦人科ME学会、日本脳神経超音波学会の三学会連名で発表されています。
- *2
- Buxton BP, Ryan J, Starkey C. Ultrasound. In: Starkey C, editor. Therapeutic modalities. 2nd ed. Philadelphia: FA: Davis; 1999. p. 269-304.
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